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はじめに

新人作家、城島大のブログへようこそ。

作家志望に戻ってしまった城島大が、いかにして作家に戻るかを模索し、奮闘する過程をだらだらと書いていくブログです。
仕事募集中
仕事のご依頼がありましたらメールフォームよりご連絡ください。


『カクヨム』、『小説家になろう』、『エブリスタ』にて作品を公開中。

カクヨム
https://kakuyomu.jp/users/joo

小説家になろう
https://mypage.syosetu.com/1292904/

エブリスタ
https://estar.jp/_crea_u?c=U2FsdGVkX18xXOTc5MDkyNgB9O7VaxPuiqiTXKcXpO9yQ1

小説家になろうに投稿している『地球は既に侵略されている』が、SFパニック部門で第一位をとりました!

キャプチャ

最近、ゲーム実況もはじめました。
https://www.youtube.com/channel/UCfzbvmbKWsTsFR_WrGQtwLA


『ちっちゃいホームズといじわるなワトスン』が絶賛発売中


ツイッター:https://twitter.com/joujimauthor  @joujimauthor 
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『はだかの勇者様!!』という新作を投稿した


新しく『はだかの勇者様!!』という新作を投稿した。

勇者と魔王の戦いに決着がつかず、なあなあになったまま千年の時が過ぎてしまった現代を描く、ほんのり緩い学園ファンタジーだ。
勇者が国家資格になり、”才能”と呼ばれる超能力を持った者たちが勇者を目指す学園で起こる騒動を、時にはコメディチックに、時にはシリアスに描いた物語である。

僕はこの作品で、新しい時代の到来を描きたいと思っている。

過去への憧れとか、昔からの価値観とか、現実への諦観とか、そういうもの全部忘れて、自由にそれぞれの今を生きよう。
読んだ人に、そう思ってもらえるようなものにしたい。


この小説の主人公は、いわば主人公になれなかった男の物語だ。

伝説の勇者の生まれ変わりで、千年に一度の力を持って生まれて、咄嗟に誰かを助けてしまう心も持っている。
自他共に認める主人公の器を持った人物だ。けれど、人を助けるために負った怪我で全てを失ってしまった。

それでも自分の夢をあきらめずにいる主人公が、多くの人間と出会い、価値観に触れ、辿り着く答えに、この作品のテーマを込めるつもりだ。


ぶっちゃけ、完璧に書くのはかなりハードルが高い。
でもまあ、一つ挑戦してみようと思う。


カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054888525531
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9133fh/

『殺人鬼のジェイ君は女の子を殺せない』という作品を書き終えました


最近は、一日のほとんどの時間を小説のために費やすことができていると感じている。
運動をしたり、瞑想をしたり、散歩をしたりといった、健康的な習慣も、全ては小説を定期的に書くために行っていることだ。
そのおかげで、執筆以外の書くために必要なことも、率先してこなせるようになってきた。

それでも、いつまで経っても気だるく感じてしまうものがある。
それが宣伝だ。

読んで感想をくれた方には、毎回返事を書いている。素直な感情を伝えるだけなので、非常に楽しい。
けれど、ブログなどで「こういう作品書きましたー。こんな感じの内容なので、ぜひ読んでね♪」みたいなやつは、何故か忌避感を覚える。
作家同士の感想の投げ合いとか、そういうのもなんかやだ。

これは僕の古臭い職人気質な考え方がそうさせるのだろうが、なんとなく、本質的ではない気がするのだ。

僕は友達を作るために書いているのでもないし、内容を伴わない評価を受けたいとも思わないし、もっと言えば、別に有名人になりたいわけではない。有名になるというのは、ただの過程だ。


宣伝というのは、ある種の誇張だ。
作品の一部分だけを捉えるものだし、作品の中身をそのまま伝えているわけでもない。
作品をちゃんと読んでくれた人に、あるがままの自分を伝えたい僕にとって、たぶんそういうところが嫌なんだろうと思う。

この意見に反対する人は多いと思う。
面白ければ一言で中身を伝えられるとか、そんなことを言えば演出の全てを否定することになるとか、そもそも物語というのは演出の塊じゃん、とか。
でもやっぱり、これが僕の素直な気持ちなんだと思う。
ノリとか、見た目とか、キャラとか、そういう表面的なものを見て決めつけられてきた自分は、「それは違う」と主張するために、小説を書いているのだから。



というわけで、マトモにブログを更新できない言い訳を終えつつ、『殺人鬼のジェイ君は女の子を殺せない』という作品を完結させたので、その報告をさせてもらいます。

とあるキャンプ場で人を殺して生きてきた殺人鬼が、三人の女の子と出会うことで、殺戮以外の方法で自分の恨みを解消する道を見つける物語です。

めっちゃ抽象的かつ簡単にこの作品の構図を説明すると、世界の悪意を完全に排除した日常系アニメの世界に、世界の悪意の塊であるホラーが侵食してくるというお話だ。


日常系アニメは、いわば聖域だ。
大人が子供にいつまでも純粋でいて欲しいと願うように、そこは絶対に冒してはならない場所。
そこを冒そうとする怪物たちを、同じ怪物であるジェイ君が、ばったばったとなぎ倒す。

聖域を冒さず悪意を倒すには、悪意を知る者に頼るしかない。
そしてその悪意を知る者が聖域を守る時、きっとその人物は応援されるし、救われると思うのだ。


僕がホラー映画を見ていていつも思うことがある。
恨みを持って怪物になった彼らは、どうしたら救われるんだろうと。
その問いに、一つの答えを出したのが今作だ。

どんでん返しあり。テーマに則った逆転劇で敵を倒す、カタルシス満点のハリウッド的ラストあり。
ストーリーは単純で、けれどテーマには深みがある。

僕はずっと、こういう作品が作りたかった。
あいかわらず評価は少ないけれど、それでもこの作品を書けて良かったと思うし、一つの自信になった。

というわけで、もし少しでも興味が湧いたのなら、見てくださるとうれしいです。


カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054888252664
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n5417fg/
エブリスタ:https://estar.jp/_novel_view?w=25343493

ヒーロー小説の冒頭を変えてみた9




主人公の行動原理が分からないという指摘をいただき、自分なりに改善してみました。

矛盾した心理を書きたいと思っていたので、行動原理が分かりにくいのは仕方ないかなと考えていたけれど、矛盾に苦しむ心理を書くことと、行動原理を明確にすることは、別に相反したものじゃないんじゃないかと思い直した。
むしろ、理解されなくても良いかと考えていること自体が矛盾を孕んでいる。何かを理解してもらいたくて、僕は小説を書いているのだから。

その辺りの矛盾は、僕が自分の小説を誰に読んで欲しいかを、ちゃんと定めていないことが原因だと思う。
僕が知り合ってきた、どれだけ言葉を重ねて伝えても伝わらなかった人達に、小説という形で何かを伝えようとしているから、どこかで諦めの気持ちが出てくる。でもたぶん、僕の小説を読んでくれる層は、そういう人達じゃない。
それをもっと、自分の中で明確にしないといけないんだと思う。

プロット自体は前回と変わっていないので、どこまで改善できたのかは不安だけれど、とりあえず投稿してみる。
自分だけの力じゃ、たぶん改善するのは限界がある。怖くても恥をかいても、挑戦できるのなら何度でも挑戦しよう。



<本文>

『あなたが本当に困った時は、ちゃんと助けてと言える大人になりなさい。そしたらきっと、正義のヒーローみたいな人が現れて、あなたを助けてくれるわ』

おふくろのその言葉が嘘だということを、オレはおふくろから教わった。
血に塗れた手で両親の死体を見下ろした時、オレは悟ったのだ。
この世界では、誰かに助けを求めたところで、誰も助けてくれない。
だからオレは、奪われる側から、奪う側へと回ったんだ。



普段は忙しなく人が行き交うスクランブル交差点。
そこはもはや、廃墟と呼ぶに相応しい場所になっていた。
大小さまざまなクレーターが地面を覆い、いくつものビルが倒壊している。
そのビルの側で、オレは一人の女を抱えたまま、蹲っていた。

おぞましいドクロのマスクで顔を隠し、黒のロングコートをなびかせるオレに対し、女は虹色に輝くゴーグルをつけ、純潔を示す白のスーツを着こなしていた。
人間に宣戦布告し、悪の組織を結成した魔王。
悪と同じ存在であるにも関わらず、人間に味方した正義のヒロイン。
立場も、姿も、全てが両極に存在する。
それが、オレとこの女の関係だった。

「なのに、なんでだよ」

オレは、思わず歯噛みした。

「なんでお前は、オレを庇って死にかけてるんだよ‼」

脇腹から流れる血が地面に溜まりを作り、彼女は青くなった顔で、浅い呼吸を繰り返している。
重い瞼がゆっくりと開き、彼女はオレの顔を見つめた。

「……怪我は、ない?」

オレは愕然とした。
まるで、今まで彼女が守ってきた民間人に言うように、彼女は小さな声で囁いていた。
怪我なんて、ないに決まっている。
二人で戦っている最中、後ろから倒れてきたビルに飲み込まれるはずだったオレを、彼女が押しのけたのだから。

「オレ達は敵で、どちらかが死ぬまで争いは終わらない。そういう戦いをしてきたはずだろ! オレは仲間を、お前は正義を信じて、今まで戦ってきたんだ! なのに、こんなことで終わらせるつもりかよ。お前が信じた正義は、そんなものだったのかよ‼」

自分でも、何に怒っているのか分からなかった。
頭に血が上り、心臓が早鐘を鳴らし、感情のままに、オレは叫んでいた。

人間と、人間ならざる者の戦いは、彼女の存在によって大きく変化した。
オレ達と同じ特別な力を持ち、人間に排斥され、なのに人間に味方する正義のヒロイン。
長く続いた裏切り者との戦いも、これで最後だと覚悟して臨んだ。
数時間後に立っている者が、この世界を支配することになるのだと本気で信じた。
確実に、殺すつもりでこの戦場に降り立った。

なのに……、死んでいく彼女を見て、オレはこんなにも動揺している。

「答えろよ! どうして敵であるオレを助けた⁉」

彼女は薄れゆく意識の中で、何事かを考えているようだった。
しばらく沈黙し、そしてやがて、ゆっくりと笑ってみせた。
オレの前に立ちふさがる時にみせる、あの堂々とした不敵な笑みを。

「……あなたが、助けて欲しそうな顔をしてたから」

オレはその言葉を聞いて、硬直した。
両親をこの手で殺した時から、誰かに助けてもらおうなんていう甘い考えは捨てていた。
助けてと言ったところで、振り向いてくれるヒトなんていなかった。
なのに、よりにもよって仇敵に、そんな言葉を投げかけられ、オレは何も言えないでいた。



その日。長かった悪と正義の戦いは終結した。
正義の死という、残酷な結末を迎えて。



【20年後】


そのスクランブル交差点は、以前とは違い、大勢の人でごった返していた。
当時の戦いで破壊された建物は全て修繕(しゅうぜん)され、今ではその爪痕すら見つからない。
しかし、20年前の今日と同じく、そこには異形の存在がいた。

「グハハハハ! オレ様は『ジャイアントストーン』。日和見な人間共に粛清するべく立ち上がった! 貴様ら、泣いて慄(おのの)くがいい‼」

群衆にぽっかりと穴を空け、その真ん中に立つ大男は、高らかにそう宣言した。
2メートル以上ある巨体。光沢のある、角張った二の腕。
全身を鼠色に染めたその身体は、まさに生きた岩そのものだ。

「オレ様の名を脳みそに刻んでおけ。やがて悪党(ヴィラン)の代表として、歴史に名を残す存在だ!」

ジャイアントストーンは愉悦に浸りながら、その太い腕で、近くの道路や建物を破壊し始める。
その様子に、群衆たちは辟易しながらため息をついた。

「またランスのヴィランごっこかよ」
「警察は何をしているんだ?」

ぶつくさと愚痴を言う声がオレの耳に聞こえてくるものの、誰も恐怖を感じている様子はなかった。
彼らにとって、もはやランスが暴れることは日常と化していた。

ランス。
それは突如人間の中から生まれた突然変異体だった。
人間には存在しない『強化細胞』を自在に操り、多種多様な姿に変身することができる。
ランスの誕生は人々に混乱を生み、その混乱は、得体の知れない存在に対する迫害という形で、世界に影を落とした。
不当な扱いを受け続けたランスはとうとう怒り、悪の組織を結成。
長く辛い闘争を経て、人間に勝利した。

その時ランスを指揮したのが、悪の組織のボスだったこのオレだ。
ヒーローを名乗る裏切り者のランスが人間に味方するというイレギュラーがあったものの、それも一騎打ちという形で見事に収めてみせた。

それから20年。
ランス保護法が可決され、ランスの権利が確保されたことをきっかけに、オレは組織のボスを引退した。
現在は、ランスが迫害されることのないように町を監視するという、組織の端仕事をこなす毎日を送っている。
大して面白くもないが、仕事は仕事だ。強化細胞を使って、十代後半の身体を維持し、万が一にも怪しまれないように徹底している。
唯一楽しいことがあるとするなら、定期的に現場に出ることで、世界が変わったという実感を持てることだ。

人間からの差別に苦しんでいたランスは、今や公的機関でさえ手を出すのは難しい存在にまで地位を高めた。
こうして大々的に破壊活動を行っても、人間を不当に傷つけたりしなければ、咎められることはない。
ランス差別は未だ様々な形で横行しているが、それも影を潜めつつある。

昔に比べ、世界は平和になった。
以前なら、ランスだということが人間にばれれば袋叩きにあい、警察に相談しても動く気配すらなかった。それどころか、名誉棄損や公務執行妨害で犯罪者にされる始末だ。
そんな世界を変えるために、オレは死に物狂いで戦った。

人間からの不当な差別に悩まされることなく、ランスが自由に暮らせる世界。
それが悪の組織を結成した理由だ。
そんな世界が、自分の手で実現されつつあるということに、オレは誇り高い気分だった。

「人間風情がオレ様にぶつかるとは、良い度胸だな‼」

そんな怒声が聞こえて目を向けると、ジャイアントストーンの前で、一人の女子高生が尻もちをついていた。

「きゃ~、こわーい!」

近くにいた3人の女子が、けらけらと笑いながら逃げていく。
尻もちをついた女は、身体を震わせるだけで何も言えないでいた。

いじめか。
おそらく逃げて行った女達が、わざと押し倒したのだろう。
動けずにいる女は、非常に地味だった。うなじほどにまで伸びた黒髪は何の手入れもしていない。童顔で、見るからにおどおどしていて、身体の節々から暗いオーラを醸し出している。
これでは、いじめてくださいと身体でアピールしているようなものだ。

(こりゃ、間違いなく人間だな)

ランスは人間に比べて、圧倒的な力の差がある。
元々の気質や、素性をなかなか明かせない環境から、暗い印象のランスは多いが、それでも人間よりは優れているという自負がどこかで感じられる。
しかしこの女には、到底そんなものを感じられなかった。

(さて、どうするか)

人間なら、敢えて助けてやる必要もない。
が、下手にランスが人間に危害を加えると、世論が傾きかねないのも確かだ。
元々、そういう事態を避けるために、暴れるランスを監視しているのだから、何らかの処置を取らなければならないだろう。

仕方がないと、オレが前に出ようとした時、周囲の囁き声が聞こえてきた。

「あ~あ。馬鹿だなぁ」
「自分の身は自分で守らないとね~」
「勝手なことするからだよ」

そのような言葉を、オレは以前にも聞いたことがあった。
ランスのために戦うオレ達の前に立ちはだかった、憎き裏切り者。あのヒーローを罵倒する、人間の言葉だ。
人間のために戦いながら、敵と同じランスであることを理由に、誰からも応援されず、誰からも必要とされず、ただ一人、孤独に戦っていた。
彼女の死後も、人間は同じように彼女を罵倒した。

『馬鹿な女だ』
『勝手なことをするからそうなる』

何度も彼女に助けられながら、人間達はそう言って吐き捨てた。
仲間であるランスに憎悪の目を向けられ、守るべき対象である人間に蔑まれ、それでも彼女は笑っていた。
命の灯が消える、最後の最後まで。

「オレ様の拳でぺしゃんこにしてやる‼」

その言葉に、オレはハッとした。
ジャイアントストーンが拳を振り上げる。
女は思わず目を瞑る。
その、今まさに死を待つだけの少女の姿が、あいつの姿と重なった。
20年前の今日、この場所で死んだ、あのヒーローと。

気付けばオレは、10メートル以上離れていた距離を一瞬で詰め、ジャイアントストーンの無防備な脇腹に、拳を突き刺していた。
頑強な身体に大きなヒビがはいり、込み上げてくるものを拒むように頬を膨らませ、ジャイアントストーンは倒れ込む。

「ん? 急に倒れてどうしたんだ?」
「さぁ。見てなかったから。あの子が何かしたんじゃない?」
「まさか。音一つしなかったぜ」

野次馬達のざわめきを聞きながら、オレは荒くなった呼吸を、なんとか落ち着かせようと必死だった。
何をしているんだ、オレは?
これじゃあ、まるで……

脳裏をかすめる言葉を、オレは慌てて否定した。
違う。あのままこの人間がやられていたら、ランスの立場が悪くなっていた。
だから助けたんだ。それ以上の意味なんて、あるはずがない。

そこではたと周囲の視線に気づき、オレはわざとらしく大きな声をあげた。

「きゅ、急に倒れて大丈夫ですか⁉ 救急車呼びましょうか⁉」

ジャイアントストーンに寄り添うようにしていると、立ち止まっていた野次馬達が、勝手に納得して歩き始める。
それを見て、オレはほっと胸を撫で下ろした。

「あ、あの……」

尻もちをついていた女が、そのままの恰好でオレを見上げていた。
オレは少しだけ考えてから、女に手を差し出した。
女は、恥ずかしそうに、ゆっくりとその手を伸ばす。
オレの手に触れようというその時、オレはわざとその手を動かした。
素直に体重をかけようとしていた女は、そのまま顔面から地面へ倒れ込む。

「わぶっ! な、なにするの⁉」
「なにって、いじわるに決まってるだろ。オレ様は悪党だからな」

鼻を抑えながら、女はキッとオレを睨んだ。

「文句も言わず反抗もせず、ただ誰かに助けられるのを待つだけか。さぞや楽だろうな」

これは紛れもなく本心だった。
自分では何も動かず、ただ他人の庇護を求めるムシの良い生き方が、オレは大嫌いだった。

一言くらい、反論があってもよかったはずだ。しかし、いつまで経ってもそれはなかった。
自分自身のために怒ることもできないこの女の態度に、オレは思わず舌打ちした。

「お前みたいな奴がいたからあいつは──」

そこまで言いかけて、オレは慌てて口をつくんだ。
余計なことを喋りそうになった。
オレは忌々し気に口をすぼめ、女から背を向ける。

「さっさと帰れ。家に引きこもって、一生甘やかされて暮らせばいい。お前にはお似合いだ」
「……それができたらって、いつも思ってるよ」

虫のようにかぼそい声だった。
顔を向けるも、彼女はそれ以上喋ることはなく、黙って地面を睨みつけている。
オレは鼻を鳴らし、さっさとその場をあとにした。


◇◇◇


「お疲れ様でした、ボス」

執務室に入ったオレに、中で男とやりとりをしていた女が、すぐさま一礼した。
彼女はアゲハ。オレが引退した今も、何かと身の回りの世話をしてくれている。
20代後半の容貌で、先端がウェーブがかったロングヘアーをなびかせている。
ぴんと伸びた背筋でタイトスーツを着こなす姿は、まさに敏腕秘書官といった様相だ。

「ボスじゃねぇ。オレはもう引退した身だ」
「でも、ボスはボスです」

そう言って、アゲハはいたずらっぽく笑ってみせる。
彼女はどこからどう見ても大人の女だが、時々、子供っぽい素顔を見せることがあった。

「たかだか小悪党の監視にボスを起用するとは。我々はとんでもない贅沢者ですな」

本革製の椅子に座り、執務机に肘を乗せながら、中年の男は言った。
彼は、今やこの国のトップになった元部下、中曽根祐司内閣総理大臣だ。
オレはソファにどっかと座り、足を組んだ。

「気にするなよ。暇だったから引き受けたまでだ。こんなことで無駄な労力を使うことはない」
「実際、ボスのおかげで非常に助かっているのも事実です。SNSでヴィランを名乗るアカウントが急増したおかげで、こちらはてんてこまいですよ」

ヴィランの存在は、若年層の間では知らない者はいないほどの一大ムーブメントだった。
SNSの名前欄の部分に『@ヴィランネーム』と書かれたアカウントが、漫画やアニメに出てくるような悪党になりきって、自分が行った悪事や主張を発表していくのだ。
アイコンも、自分がランスになった時の写真を使う徹底ぶりで、動画サイトではヴィランの悪事動画は大人気コンテンツになっている。

「しかし、我々の世代では考えられませんな。自らランスであることを明かすなどと」
「平和ボケか、馬鹿が増えたか。まあ、どっちもだろうな」

実際、ヴィランとして活動するランスは、そのほとんどが20歳以下の、闘争未経験の若者だった。
人間の姿までは明かしていないことを考えると、多少は用心しているようだが、それでもガードが緩いと言わざるを得ない。

しかしオレ自身は、口で言うほど、この現象を危険視していなかった。
むしろ、今までランスであることを引け目に感じることしかできなかった現状を変えてくれる、良いチャンスだとさえ思っていた。
どういう理由であれ、自分がランスであることを誇りに思えるなら、それは非常に価値あるものだろう。
それは、ランスが不自由なく暮らせる世界には、決して欠かせないものだった。

「それで、最近はどうなんだ?」
「おかげさまで、ようやく地盤を固めることができました。まだまだ気は抜けませんがね」
「当分抜いてくれるなよ。少なくともオレが死ぬまでは、じゃじゃ馬のように働いてもらわないと困る」
「あなたは引退しても容赦がありませんね。せいぜい頑張りますよ。我々の悲願のために」

オレは苦笑した。
中曽根とは久しぶりに会うが、まったく変わっていない。
理知的で、感情に流されず、大局を見て物事が判断できる。
だからこそ、この男に全てを任せて引退することができたのだ。

改めて確信した。
悪の組織があれば世界は変われる。
ランスが人間に差別されることなく、平等に暮らせる社会が実現できる。

「そうしてくれ。ランスが不自由なく暮らせる世界のために──」

中曽根は笑みを浮かべ、口を開いた。


「そして、人間を根絶やしにするために」


オレは目を見開いた。

「……は?」

思わず、中曽根の方を見る。
冗談を言っているような気配はまるでなかった。
それどころか、彼の瞳は真剣そのものだった。

「実は、今日ボスにお会いしたのも、その件についてお話したいと思っていたからです。我々はこの20年、人間に頼らずとも国を維持できるように、着々と下準備を進めてきました。そしてようやく、人間殲滅を実行できる日が来たのです」
「ちょ、ちょっと待てよ。人間を滅ぼすだって? いくらなんでも……」
「ご心配には及びません。様々な観点から分析を重ね、それが実行可能であると結論付けました。詳しいデータは後日お送りしますから、一度目を通していただいて──」

オレは思わず立ち上がった。

「そうじゃねえ! そんなことする必要がどこにあるんだ! ランスの権利は既に確保されている。悪党だと高々に宣言しても、警察は何もできない。人間はオレ達に逆らえないんだ! これでもまだ足りないってのか⁉」
「足りません。当たり前ではありませんか」

当然のように、中曽根は言った。

「ボスは人間が我々にしてきた仕打ちをお忘れですか? ヒトとしての権利を踏みにじり、一時の快楽のために人生を破滅させ、虫けらのように扱われた当時の出来事を、私は今でも昨日のことのように思い出せる」

オレは言葉を返せなかった。
もちろんオレだって、そのことを忘れた日はない。未だ人間と聞くだけで顔が強張るほどには、解消されていないわだかまりが残っている。
しかしだからといって、全ての人間を滅ぼすなんて、明らかにやり過ぎだ。

「一部のランスは自ら素性を明かしていますが、未だ多くのランスはその力を隠し、人間に合わせて生きています。もしもその必要がなくなれば、今と同じ……いや、それ以上の成長速度で、この国は発展することができる。分かりますか? もはや人間など、我々にとってはいらない存在なのですよ」

……いらない?
あいつが、たった一人で守り抜こうとしたものは、必要なかったってのか?

オレの脳裏にこびりついた、彼女の最後の笑みが、目の前に浮かび上がる。

それじゃああいつは、一体何のために──

「ボス」

アゲハに声をかけられ、オレはハッとした。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
「あ、ああ。大丈夫だ」

冷や汗を拭いながら、オレは小さく答えた。

「ボス。あなたの力が必要です。引退したとはいえ、未だボスの求心力は衰えておりません。さすがに人間を滅ぼすとなれば、多くの混乱があるでしょう。しかしあなたが御旗を立てれば、必ず世のランス達は動いてくれるはずです」

御旗を立て、人間を皆殺しにしろと、仲間に命じろっていうのか?
もはや闘争ですらないただの虐殺を、彼らにやらせるために?

……違う。
違うだろ。
オレ達の悲願は、そんな血に塗れたものじゃなかったはずだ。
ただ普通に暮らすために。ただ誰かに認められるために。
そのために、オレ達は今まで──

「人間を滅ぼし、ランスが不自由なく暮らせる世界。それがあなたの望んだ世界だったはずです。悲願を達成しましょう。悪の組織の役割を、今こそ果たすのです!」

その狂気に満ちた目は、オレの知る、仲間だった頃の中曽根ではなかった。
20年前。初めて彼と出会った時。人間の迫害によって家族を失い、悪の組織の門を叩いた、あの時と同じ目をしていた。


◇◇◇

「おらぁ! 謝罪はどうした‼」
「ひいいぃ‼ ごめんなさいいい‼」

オレは建物にもたれかかりながら、呆然とヴィランが暴れているのを見つめていた。
土下座する男を見ても、民衆は気にもしていない。

この20年。オレはまったく同じことを繰り返していた。
現場に出て、悪事が為される様子を観察し、小さくため息をついて結果を報告する日々。

世界は平和になった。
おおっぴらな差別も紛争もなくなり、せいぜい小競り合いが各地で起こる程度だ。
けれどそこには、悪に慣れ、都合の悪いことを素通りし、弱者を見捨てる民衆達が、確かにいた。
オレが作った価値観が浸透し、世界は緩やかに、悪に染まりつつあった。

中曽根は、オレが渋っているのを察してか、返事は後日でいいと言ってきた。
ただ、組織の者達は皆、中曽根の意見に賛同しているという。
あとはあなただけなんです。そう言っていた中曽根の強張った顔が、今でも忘れられない。

……あのヒーローは、こうなることを分かっていたんだろうか。
分かっていて、あの時、オレを助けたんだろうか。

「だったらなんで……」

思わず漏れ出た言葉に、答えてくれる者はいなかった。
しかしそんなことは、ずっと前から分かっていたことだ。
何故ならその答えを知っているヒーローは、オレがこの手で殺したのだから。

オレは悪党だ。どうあがいたってそれは変わらない。
自分の過去が変えられないのと同じように、オレは正義のヒーローになんてなれやしない。
それでも仲間の、ランスの支えになれるのならと、必死になってこの世界を作り上げた。
それが彼らの怒りを助長し、今の暴走を生んだのだとしたら。
オレのやってきたことは、一体なんだったんだ?

もしもあいつが生きていたら。
そんなイフは、この20年で嫌というほど考えた。
そしていつも、こう結論付けられる。
あいつが生きていれば。ランスが人間に認められ、人間がランスに認められる。そんな当たり前な世界が作れたんじゃないだろうかと。
あの時、本当に死ぬべきだったのは、あいつじゃなくてオレの方だったんじゃないかと。

オレはちらと、すぐそばの路地裏を見た。
そこにはゴミが散乱し、蓋をしたポリバケツが置かれている。
オレがそのバケツの蓋を開けると、中には三角座りしている女がいた。

「何やってるんだ?」

それは、以前オレが助けた女だった。

「……別に」

女は、ぷいとそっぽを向いた。
思わず口からため息がでる。
どうやらこいつは、また誰かにいじめられているらしい。

「別にって感じでもないけどな」
「……だって、悪党なんでしょ?」

いじけてふてくされて、でも何かを期待しているような、子供のような目だった。
オレが口を開けようとした時だ。
ふいに、どこかで見た女子高生達が走って来るのが見えた。
オレはすぐさま、手に持っていた蓋でバケツを閉めた。

「いたっ!」

蓋が彼女の頭部を直撃する。
しかしそんなこと意にも介さず、オレはそのままバケツの上に座った。

女子高生達がオレを見つける。
蓋の下で女が暴れているのを感じながらも、オレはできるだけ自然を装った。

「何か用事か?」

怪訝な様子でこちらを見つめる彼女達にそう言うと、内輪でこそこそと話したあと、そのまま返事もせずに去って行く。
それを確認し、オレはほっと安堵した。

(って、馬鹿かオレは。なんでオレがこんなことで一喜一憂しないといけないんだ)

誰もが認める悪党の鏡であるこのオレが、まるでヒーローごっこでもしているようだ。
前回といい今回といい、どうにもこの女といると調子が狂う。

オレはバケツの上から降り、ゆっくりと蓋を開けた。
先程と同じように、彼女は中で三角座りしている。
以前と違うのは、顔を俯かせ、目元を何度も拭っているところだ。

オレは思わず、自分が持つ蓋に目をやった。
……まさか、そんなに痛かったとは思わなかった。
子供を泣かしてしまったことに罰の悪さを感じながら、オレは頬をかいた。

「あ~……悪かったよ。慌ててたんだ」
「違う」
「違うって、泣いてるじゃねえか」

彼女は首を振った。

「……誰かが助けてくれたの、初めてだったから」

オレは硬直した。
彼女がオレを見上げるその顔は、まるでヒーローを見つめているようだった。

『人間を滅ぼし、ランスが不自由なく暮らせる世界。それがあなたの望んだ世界だったはずです。悲願を達成しましょう。悪の組織の役割を、今こそ果たすのです!』

やめろ。
オレはそんな奴じゃない。
そんなことをする資格なんてない。だから──

「あの。助けてくれて、ありが──」

オレの目の前に、死にゆくヒーローの笑顔がフラッシュバックした。

「言うな‼」

思わず、オレは叫んでいた。
彼女は驚いた様子で、何も言えずにいる。
オレは歯を食いしばり、その場を走り去った。

くそ。くそ!
走りながら、オレは何度も毒づいた。

こんなこと、本当は気付きたくなかった。
でも気付いてしまった。
オレは仲間達とは違う。
同じ志を持ち、同じ辛苦を共にしながら、根本的な部分が違ったんだ。

オレは、自分を助けてくれなかった世界を恨みながら、自分が誰かを助けることで、そんな世界を否定していた。
不当な差別に苦しみ、オレと同じ痛みを共有するランスを救うことで、自分自身を救っていた。

オレが助けたかったのはランスじゃない。
オレは、オレと同じ、助けを求める奴らを助けたかったんだ。
助けてと言ったら誰かが助けてくれる。そんな世の中であることを信じたかったんだ。
ヒーローになれないと知っていながら、まるでヒーローごっこでもするかのように。

何かから逃げるように走っていたオレは、やがて立ち止まり、大きく息をついた。

たぶんオレは、ずっと前からそれに気付いていたんだ。
気付いていながら、気付いていないフリをしてきた。

誰も誰かを助けようとしない世界を作っておきながら、ずっと、そんな世界が変わればいいと願っていた。
だからオレは、暴れるランスを監視するという名目で、ずっと待っていたんだ。
そんな世界に異議を唱える、あいつのようなヒーローが現れるのを。

オレはスマホを取り出し、アゲハに電話した。

『はい。どうかされましたか?』
「中曽根の計画を止めるぞ」

別にヒーローの真似事をするわけじゃない。
オレは悪党だ。
自分の過去が変えられないように、オレも悪党としての生き方を変えられない。
だが、悪党には悪党にしかできないことがある。
それが今、あいつの代わりにここに立つ、オレの責任だ。

『え? ちょ、ちょっと待ってください。それってどういう……』
「オレの言葉なら全員耳を傾けるはずだ。時間はかかるかもしれないが、なんとか説得して──」

その時だ。
ずぶりと、鈍い音がオレの内側から聞こえてきた。

「隙ありです」

背後からの声。
下を見ると、オレの横腹を何者かの腕が貫通していた。

振り向きざまに拳を突き出すも、声の主は一瞬の内に後退してそれをかわす。
そこにいたのは、全身を包帯で包んだ女だった。
それを確認したと同時に、腹から血が噴き出て、思わず膝が崩れ落ちる。

「……お前。カゲロウか」

カゲロウ。
それは悪の組織でも名うての戦闘員だった。
20年前の闘争でも活躍した、隠密行動から破壊工作まで何でもこなす歴戦の勇士だ。
そして、中曽根の子飼いでもある。

「聡明なボスなら、先程の一撃で、全てをご理解してくださったことと思います」
「……まさかこのオレ様が、部下に謀反を起こされるとはな」

笑ってみせるが、したたり落ちるあぶら汗を止めることはできなかった。

「あなた様が味方になるのなら、これほど心強いことはない。けれど敵になるのなら、一秒でも早く殺さなければ未来はない。主様はそう仰っていました。そして今日、あなた様の反応を見て、我々の敵になると、主様は判断されたのです」

傷を押さえる手は、既に血塗れだ。
ランスであるオレにとっては致命傷とまではいかないが、まともに動けるようになるまでしばらく時間が掛かる。

『ボス? どうかされましたか? ボス? ボ──』

カゲロウがオレのスマホを踏みつけると、粉々に砕け散った。

「……どうやらオレの知らない間に、お前らはずいぶんと変わっちまったようだな」
「変わったのはあなた様ですよ、ボス。皆、それを口に出さないだけです。あのヒーローを殺してからというもの、あなた様はあまりにも変わってしまった。組織を引退し、つまらない雑用に身をやつし、我々の悲願を忘れてしまった。人間を滅ぼすという野望を阻止する者は、たとえボスであっても許しません」

カゲロウの手が、オレの頭にかざされる。

お笑いだな。
人間に味方した裏切り者としてヒーローを殺したオレが、同じ裏切り者として仲間に殺されるなんて。

「遺言は聞きません。一片の迷いなく殺めることが、私が示せる、あなた様への敬意です。せめて、心残りがないことを祈ります」

心残り、か。
あるにはある。
20年経った今でも、オレはあのヒーローがしてみせた行動の意味が、分からないでいた。
あいつはどうして、自分の命を賭して敵であるオレを助けたのか。あいつはどうして、最後にあんな笑顔ができたのか。
それが分かれば、きっとオレも──

「それではさようなら、ボス」

カゲロウの手から熱を感じる。
突如として現れた炎が手に宿り、それは徐々に肥大化していく。
炎に飲まれるのを覚悟して、オレが目を瞑ろうとした時だった。

ふいに、オレの耳に何かが聞こえた。
真昼間に聞こえるはずのない、コウモリの羽音が。

打撃音と共に、カゲロウの手が離れる。
その指と指の隙間から、オレは見た。

単身、カゲロウに飛び蹴りを食らわす、その女の姿を。

カゲロウはその蹴りを腕で防ぎ、少しだけ後退すると、すぐさま体勢を立て直す。

「何者です?」

鋭い眼光で、カゲロウは女を睨みつける。
女は強化細胞で作られた黒いスーツで身を包み、コウモリを模したアイマスクで姿を隠していた。

何故か、なんてオレにも分からない。
だがオレは確信していた。
こいつはあの女だ。
いじめられ、ただ助けを待つことしかできなかった、あの女だ。

幼く頼りないその背中が、ずっと忘れられない彼女のものと重なった。
倒れ伏した弱弱しい背中ではない。たった一人で凛と立ち、オレ達の前に立ちふさがっていた、あの勇敢なヒーローの背中と。

「……お前、なんで」
「た、助けて欲しそうな顔してた、から」

女は、震える声でそう言った。
あいつとは似ても似つかない、自信なさげな顔で。

だらんと開かれていた手が、握り拳へと変わっていく。
傷口から漏れ出て体温を奪うだけだった血液が、沸騰するような熱へと変わる。

女の発言はただのざれ言だった。
さっきまでいじめられっ子だった奴が、今さらになって、一端のヒーロー気取りだ。
怒りを通り越して呆れてくる。
けれど同時に、胸の中で、熱い何かが湧き上がってきていた。
20年間、ずっと凍りついていた心を溶かすように。

「う、うわああああ‼」

女は叫びながら、子供のようにぐるぐると腕を回し、カゲロウへ突進した。

「……舐めているのですか?」

微動だにすることなく、カゲロウは女の頭を掴んだ。
女がもがくも、その手から逃れることができない。

「焼かれて死ね」

再び、カゲロウの腕に炎が纏う。
オレは拳を地面に叩きつけ、震える身体を立ち上がらせた。

まだ傷の再生には時間がかかる。だがそんなの関係ねぇ。

動けよ。
ここで動かないでどうする。ここでこいつを助けないでどうする。

ずっと諦めて、それでも諦めきれなくて、足掻いて足掻いて、世界を変えても手に入れたかったものが今、目の前にいるんだ!

カゲロウの腕から精製された炎が、彼女を飲み込まんとして迫る。

『あなたが本当に困った時は、ちゃんと助けてと言える大人になりなさい。そしたらきっと、正義のヒーローみたいな人が現れて、あなたを助けてくれるわ』

「希望(ヒーロー)は、オレが殺させねぇ‼」

思い切り足を踏み込み、オレは渾身の力で拳を放った。
濁流のような風圧が迫りくる炎を押し返し、そのままカゲロウの身体を殴り飛ばした。

「がはっ!」

カゲロウは背中から壁にぶつかり、そのまま地面に倒れ伏した。
肩で息をしながら、オレは自分の傷を確認する。
貫かれた傷は、煙をあげるほどの細胞運動によって、既に塞がれていた。

どうやらギリギリのところで間に合ったらしい。
安堵のため息をついたのもつかの間、倒れたままぴくりとも動かなかったカゲロウの身体が、突如炎になって燃え上がった。
かと思うと、少し離れたところで火柱が上がり、中からカゲロウが姿を現した。

「不意打ちは失敗、ですか。唯一の勝機と思い挑んだのですが、まさかあれだけの傷を一瞬で回復させるとは。その精神は地に落ちようと、不滅の魔王と呼ばれたそのお力は健在のようですね」
「恩も忘れちまったような奴が言ってくれるな。だが、お前のおかげで理解できたよ。聞き分けのねえ馬鹿は、誰かがぶん殴ってやらないといけないってことをな」
「……本当に、我々の敵になるのですね」

普段から感情を表に出すようなタイプではないが、この時ばかりは、どこかもの悲しい雰囲気があった。

「ヒーロー気取りでお前らを罰するつもりはねぇ。オレ様は悪党だからな。悪党なりのやり方で、お前らを潰してやるよ」
「できるものなら。次こそは、必ずあなた様の息の根を止めてごらんにみせます」

カゲロウは、慇懃に一礼すると、再び炎となって消えた。
先程までの戦闘が嘘のように、辺りは静まりかえっている。

世界は敵になり、再びゼロからのリスタート。
まったくもって最悪な日だ。
最悪だが、妙に清々しい気分だった。
それはきっと、後ろにいる馬鹿も、多少は影響していることだろう。

「おい」

どうしたものかと手持ちぶさたにしていた女に、オレは言った。

「お前、名前は?」
「リ、リア。日隠リア」
「そうか」

オレはリアに向かい合い、にこりと笑う。
リアは、戸惑いながらも、ぎこちなく笑った。
オレはそれを見て、ゆっくりと彼女の鼻を摘まみ上げた。

「い、いたたたたた‼ 急になにするの⁉」
「馬鹿かお前は。簡単に自分の素性を明かすんじゃねぇ」
「そ、そんなのあなたに関係ないじゃん! いた、いたたたた‼」

うるさいので離してやると、鼻に両手をあてがい、涙目になってオレを睨んでいた。

「お前、家族とうまくいってないのか?」
「……何よ、急に」
「学校は? どうせ嫌われ者なんだろ」
「う……。そ、そうだけど⁉ なにか悪い⁉」

開き直って叫ぶリアに、オレは言った。

「人気者になりたいか?」
「え?」

あのヒーローは、最後に何かを守って死んだ。
その何かを、オレは20年、ずっと探し続けてきた。

答えなんて分からない。
どれだけ探しても、知りようがない。
唯一その答えを知っている奴は、とうの昔に死んだのだから。

だが、オレは思ったのだ。
もしかしたら……。
もしかしたらこいつなら、その答えを教えてくれるんじゃないかと。
弱くて、情けなくて、正義のヒーローには程遠い。けれど何よりも気高いものを持った、この女なら。

オレは、ずいとリアに顔を近づけ、言った。
この世の中をぶっ壊す、最初の一段となる言葉を。

「オレがお前を、人気者のヒーローにしてやるよ」

ヒーロー小説の冒頭を変えてみた8



ランスが世界を支配しているということが、感覚的に分かるように少し修正した。


<本文>

『あなたが本当に困った時は、ちゃんと助けてと言える大人になりなさい。そしたらきっと、正義のヒーローみたいな人が現れて、あなたを助けてくれるわ』

おふくろのその言葉が嘘だということを、オレはおふくろから教わった。
血に塗れた手で両親の死体を見下ろした時、オレは悟ったのだ。
この世界では、誰かに助けを求めたところで、誰も助けてくれない。
だからオレは、奪われる側から、奪う側へと回ったんだ。



普段は忙しなく人が行き交うスクランブル交差点。
そこはもはや、廃墟と呼ぶに相応しい場所になっていた。
大小さまざまなクレーターが地面を覆い、いくつものビルが倒壊している。
そのビルの側で、オレは一人の女を抱えたまま、蹲っていた。

おぞましいドクロのマスクで顔を隠し、黒のロングコートをなびかせるオレに対し、女は虹色に輝くゴーグルをつけ、純潔を示す白のスーツを着こなしていた。
人間に宣戦布告し、悪の組織を結成した魔王。
悪と同じ存在であるにも関わらず、人間に味方した正義のヒロイン。
立場も、姿も、全てが両極に存在する。
それが、オレとこの女の関係だった。

「なのに、なんでだよ」

オレは、思わず歯噛みした。

「なんでお前は、オレを庇って死にかけてるんだよ‼」

脇腹から流れる血が地面に溜まりを作り、彼女は青くなった顔で、浅い呼吸を繰り返している。
重い瞼がゆっくりと開き、彼女はオレの顔を見つめた。

「……怪我は、ない?」

オレは愕然とした。
まるで、今まで彼女が守ってきた民間人に言うように、彼女は小さな声で囁いていた。
怪我なんて、ないに決まっている。
二人で戦っている最中、後ろから倒れてきたビルに飲み込まれるはずだったオレを、彼女が押しのけたのだから。

「オレ達は敵で、どちらかが死ぬまで争いは終わらない。そういう戦いをしてきたはずだろ! オレは仲間を、お前は正義を信じて、今まで戦ってきたんだ! なのに、こんなことで終わらせるつもりかよ。お前が信じた正義は、そんなものだったのかよ‼」

自分でも、何に怒っているのか分からなかった。
頭に血が上り、心臓が早鐘を鳴らし、感情のままに、オレは叫んでいた。

人間と、人間ならざる者の戦いは、彼女の存在によって大きく変化した。
オレ達と同じ特別な力を持ち、人間に排斥され、なのに人間に味方する正義のヒロイン。
長く続いた裏切り者との戦いも、これで最後だと覚悟して臨んだ。
数時間後に立っている一人が、この世界を支配することになるのだと本気で信じた。
確実に、殺すつもりでこの戦場に降り立った。

なのに……、死んでいく彼女を見て、オレはこんなにも動揺している。

「答えろよ! どうして敵であるオレを助けた⁉」

彼女は薄れゆく意識の中で、何事かを考えているようだった。
しばらく沈黙し、そしてやがて、ゆっくりと笑ってみせた。
オレの前に立ちふさがる時にみせる、あの堂々とした不敵な笑みを。

「……あなたが、助けて欲しそうな顔をしてたから」

オレはその言葉を聞いて、硬直した。
両親をこの手で殺した時から、誰かに助けてもらおうなんていう甘い考えは捨てていた。
助けてと言ったところで、振り向いてくれるヒトなんていなかった。
なのに、よりにもよって仇敵に、そんな言葉を投げかけられ、オレは何も言えないでいた。



その日。長かった悪と正義の戦いは終結した。
正義の死という、残酷な結末を迎えて。



【20年後】


そのスクランブル交差点は、以前とは違い、大勢の人でごった返していた。
当時の戦いで破壊された建物は全て修繕(しゅうぜん)され、今ではその爪痕すら見つからない。
しかし、20年前の今日と同じく、そこには異形の存在がいた。

「グハハハハ! オレ様は『ジャイアントストーン』。日和見な人間共に粛清するべく立ち上がった! 貴様ら、泣いて慄(おのの)くがいい‼」

群衆にぽっかりと穴を空け、その真ん中に立つ大男は、高らかにそう宣言した。
2メートル以上ある巨体。光沢のある、角張った二の腕。
全身を鼠色に染めたその身体は、まさに生きた岩そのものだ。

「オレ様の名を脳みそに刻んでおけ。やがて悪党(ヴィラン)の代表として、歴史に名を残す存在だ!」

ジャイアントストーンは愉悦に浸りながら、その太い腕で、近くの道路や建物を破壊し始める。
その様子に、群衆たちは辟易しながらため息をついた。

「またランスのヴィランごっこかよ」
「警察は何をしているんだ?」

ぶつくさと愚痴を言う声がオレの耳に聞こえてくるものの、誰も恐怖を感じている様子はなかった。
彼らにとって、もはやランスが暴れることは日常と化していた。

ランス。
それは突如人間の中から生まれた突然変異体だった。
人間には存在しない『強化細胞』を自在に操り、多種多様な姿に変身することができる。
ランスの誕生は人々に混乱を生み、その混乱は、得体の知れない存在に対する迫害という形で、世界に影を落とした。
不当な扱いを受け続けたランスはとうとう怒り、悪の組織を結成。
長く辛い闘争を経て、人間に勝利した。

その時ランスを指揮したのが、悪の組織のボスだったこのオレだ。
ヒーローを名乗る裏切り者のランスが人間に味方するというイレギュラーがあったものの、それも一騎打ちという形で見事に収めてみせた。

それから20年。
ランス保護法が可決され、ランスの権利が確保されたことをきっかけに、オレは組織のボスを引退した。
現在は、小悪党の暴れっぷりを監視するという、組織の端仕事をこなす毎日を送っている。
大して面白くもないが、仕事は仕事だ。強化細胞を使って、十代後半の身体を維持し、万が一にも怪しまれないように徹底している。
唯一楽しいことがあるとするなら、定期的に現場に出ることで、世界が変わったという実感を持てることだ。

ランス差別という言葉が流行語のように飛び交う現代。
差別に苦しんでいたランスは、今や公的機関でさえ手を出すのは難しい存在にまで地位を高めた。
時折、人間とランスの間で小競り合いは起きるものの、どれも大勢には影響しないものばかり。

人間からの不当な差別に悩まされることなく、ランスが自由に暮らせる世界。
そんな世界を自分の手で実現できたことは、オレの誇りだった。

「人間風情がオレ様にぶつかるとは、良い度胸だな‼」

そんな怒声が聞こえて目を向けると、ジャイアントストーンの前で、一人の女子高生が尻もちをついていた。

「きゃ~、こわーい!」

近くにいた3人の女子が、けらけらと笑いながら逃げていく。
尻もちをついた女は、身体を震わせるだけで何も言えないでいた。

いじめか。
おそらく逃げて行った女達が、わざと押し倒したのだろう。
動けずにいる女は、非常に地味だった。うなじほどにまで伸びた黒髪は何の手入れもしていない。童顔で、見るからにおどおどしていて、身体の節々から暗いオーラを醸し出している。
これでは、いじめてくださいと身体でアピールしているようなものだ。

「ちょっと、助けてあげなよ……」
「無理無理。てか、挑発するようなことするからだろ」
「自分の身は自分で守らないとね~」

周囲の囁き声を聞いて、オレは鼻で笑った。
20年前、悪が勝利したあの瞬間。いや、それよりずっと前から、この世は弱肉強食なのだ。

(恨むなら、いじめられるしかなかった弱い自分を恨むんだな)

そう思い、踵を返そうとした時だった。

突然、炎に焼かれる街並みがフラッシュバックした。
したたる血。
冷たくなっていく身体。
弱弱しくオレに微笑む顔。

今まさに死を待つだけの少女の姿が、あの女と重なった。
20年前の今日、この場所で死んだ、あのヒーローと。

「オレ様の拳でぺしゃんこにしてやる‼」

ジャイアントストーンの拳が振り下ろされる瞬間だった。
オレは、20メートルは離れていた距離を一瞬で詰め、その無防備な脇腹に拳を突き刺した。
頑強な身体に大きなヒビがはいり、込み上げてくるものを拒むように頬を膨らませ、ジャイアントストーンは倒れ込んだ。

「ん? 急に倒れてどうしたんだ?」
「さぁ。見てなかったから。あの子が何かしたんじゃない?」
「まさか。音一つしなかったぜ」

野次馬達のざわめきを聞きながら、オレは荒くなった呼吸を、なんとか落ち着かせようと必死だった。
何をしているんだ、オレは?
これじゃあ、まるで……

はたと視線を感じ、オレはわざとらしく大きな声をあげた。

「きゅ、急に倒れて大丈夫ですか⁉ 救急車呼びましょうか⁉」

ジャイアントストーンに寄り添うようにしていると、立ち止まっていた野次馬達が、勝手に納得して歩き始める。
それを見て、オレはほっと胸を撫で下ろした。

「あ、あの……」

尻もちをついていた女が、そのままの恰好でオレを見上げていた。
オレは少しだけ考えてから、女に手を差し出した。
女は、恥ずかしそうに、ゆっくりとその手を伸ばす。
オレの手に触れようというその時、オレはわざとその手を動かした。
素直に体重をかけようとしていた女は、そのまま顔面から地面へ倒れ込む。

「わぶっ! な、なにするの⁉」
「なにって、いじわるに決まってるだろ。オレ様は悪党だからな」

鼻を抑えながら、女はキッとオレを睨んだ。

「文句も言わず反抗もせず、ただ誰かに助けられるのを待つだけか。さぞや楽だろうな」

これは紛れもなく本心だった。
自分では何も動かず、ただ他人の庇護を求めるムシの良い生き方が、オレは大嫌いだった。

一言くらい、反論があってもよかったはずだ。しかし、いつまで経ってもそれはなかった。
自分自身のために怒ることもできないこの女の態度に、オレは思わず舌打ちした。

「お前みたいな奴がいたからあいつは──」

そこまで言いかけて、オレは慌てて口をつくんだ。
余計なことを喋りそうになった。
オレは忌々し気に口をすぼめ、女から背を向ける。

「さっさと帰れ。家に引きこもって、一生甘やかされて暮らせばいい。お前にはお似合いだ」
「……それができたらって、いつも思ってるよ」

虫のようにかぼそい声だった。
顔を向けるも、彼女はそれ以上喋ることはなく、黙って地面を睨みつけている。
オレは鼻を鳴らし、さっさとその場をあとにした。


◇◇◇

「お疲れ様でした、ボス」

執務室に入ったオレに、中で男とやりとりをしていた女が、すぐさま一礼した。
彼女はアゲハ。オレが引退した今も、何かと身の回りの世話をしてくれている。
20代後半の容貌で、先端がウェーブがかったロングヘアーをなびかせている。
ぴんと伸びた背筋でタイトスーツを着こなす姿は、まさに敏腕秘書官といった様相だ。

「ボスじゃねぇ。オレはもう引退した身だ」
「でも、ボスはボスです」

そう言って、アゲハはいたずらっぽく笑ってみせる。
彼女はどこからどう見ても大人の女だが、時々、子供っぽい素顔を見せることがあった。

「首尾は上々、といったところですかな?」

本革製の椅子に座り、執務机に肘を乗せながら、中年の男は言った。
彼は、今やこの国のトップになった元部下、中曽根祐司内閣総理大臣だ。
オレはソファにどっかと座り、足を組んだ。

「暴動自体は成功だった。SNSで息巻いてる馬鹿を使うっていう手は、なかなか良かったんじゃないか?」
「最近、人気ですもんね。SNSでヴィランを名乗るアカウント。その中でも人気がいまいちなヴィランをけしかけて、知らず知らず組織のために働いてもらう。さすがは悪の組織のボス。悪党ですね~」
「誉め言葉として受け取っておこう」
「しかし、我々の世代では考えられませんな。自らランスであることを明かすなどと」
「平和ボケか、馬鹿が増えたか。まあ、どっちもだろうな」

実際、ヴィランとして活動するランスは、そのほとんどが20歳以下の、闘争未経験の若者だった。
人間の姿までは明かしていないことを考えると、多少は用心しているようだが、それでもガードが緩いと言わざるを得ない。

「それで、結果は?」

オレがアゲハにそう聞くと、彼女は自分のスマホを取り出した。
手のひらにそれを乗せ、指をかざすと、その指の先端から、一滴の強化細胞がしたたり落ちる。
水滴が落ちた水面のように、スマホの画面が揺れたかと思うと、そこからドクロマークの立体映像が浮かび上がった。

『登録したDNAと合致しました。幹部権限をアンロック。アジトを起動します』

その途端、ドクロが無数の粒になってはじけ飛び、いくつものアプリアイコンとなってアゲハの周囲を取り囲んだ。
これは悪の組織が開発した、利用率ナンバーワンのアプリを非合法に使用する時に使うものだった。
SNSアプリは無数のサクラをコントロールして世論を操作することができるし、通話アプリでは特定の携帯端末を盗聴することもできる。
アゲハは目の動きだけで、それらの中から地図アプリを選択し、起動した。

先程までオレがいた場所が大きく映し出される。そのマップには居住者の個人情報などが、事細かに記されていた。

「今回の騒動で、順当に地価が下落しているようですね。このまま続けば、周辺を取り仕切る丸伏建設会社のダメージは相当なものになるでしょう。反ランス運動に出資するどころではなくなってくるかと」
「計画通りだな。それでも駄々をこねるようなら、この情報をリークしろ。オレ達が何もしなくても、勝手に民衆が潰してくれるさ」
「今やこの国は、ランスがいなければ成り立ちませんからね。ここまでくるのに20年も掛かってしまった」
「早いくらいだ。20年前のランスの立場を考えればな」

当時はランスに対する差別が当たり前のように横行していた。
人間共の理不尽な暴力で殺される者が後をたたず、警察も、訴えがランスのものであることが分かると、平気で捜査を中断した。

そんな世の中だったからこそ、ランスがこの国のトップになった今でも、反ランス運動に力をいれる人間が数多く存在する。
そして、それを快く思わないランス達も。

「ボス。前回の件は、考えて頂けましたか?」

早速、中曽根は切り出してきた。

「……前にも言っただろ。きちんとしたデータのない話は取り合わないってな」
「アゲハ」

中曽根に言われ、アゲハが目配せすると、いくつもの棒グラフが空中に浮かんだ。

「これはランスの意見を集めた世論調査です。自分がランスであることを他人に明かせないという者が80%を超えています。ランス保護法によって、ランスの人権が確保されているにも関わらずです。その理由のほとんどが、人間からの迫害を恐れてのものでした。20年という長い期間、我々はランスが平穏に暮らせる土壌を地道に築いてきました。そろそろ頃合いだと思うのです」

中曽根は指をからめ、重々しく口を開いた。

「人間を根絶やしにしましょう」

鋭い眼光を浴びせられながら、オレは黙って下を向いていた。

「このグラフを見てください。仮に今、人間が全て滅んだとしても、依然として国の体裁を保つことができます。今のように、もしもに怯えてランスの力を使うことをしのぶ必要もない。そうなればGDPは飛躍的に伸び、長期的に見れば、今以上に国力を増やすこともできます」
「……だから?」
「だから! 国が安定してきた今こそが好機なのです! 馬鹿な人間共は、我々が表立った迫害をしないのを都合よく解釈し始めています。それどころか、闘争に負けた事実も忘れて、我々の政治手腕に不満をわめき散らす始末だ。何故こうなったか分かりますか? 確かに我々はあの闘争で勝利した。しかし奴らにとってあの敗北は、人間の敗北ではなく、ヒーローの敗北だったのです。最後の最後で、奴らにいらぬプライドを与えて死んでいったのですよ、あの女は!」

中曽根の拳は怒りに震えていた。
その感情は、20年前から何も衰えていない。そう感じさせるに足るものだった。

「奴らは我々を都合の良い奴隷か何かだと勘違いしている。このまま舐められたままで良いわけがありません!」
「人間への過度な迫害は禁止だと言っただろ」

中曽根が眉間に皺を寄せ、鬼気迫った様子で立ち上がる。

「あなたは一体、どちらの味方なんですか‼」

オレは執務机に拳を叩きつけた。
分厚い机が真っ二つに割れる。
唖然とする中曽根の胸倉を掴み、オレは睨みつけた。

「誰にものを言ってるんだ? 一から組織を作り上げ、今の世の中を作ったのは誰だと思ってる。どちらの味方だと? 分かりきったことを聞くんじゃねえ‼」

しんと、部屋の中が静まり返る。
おそるおそる、アゲハが口を開いた。

「ボ、ボス……。落ち着いて」

オレは舌打ちし、中曽根を離した。
中曽根は冷静に胸元を正す。

「……あなただけなんですよ、ボス。他の者達は、皆、私の意見に賛成している。けれどあなたの号令がなければ、誰も動きません。あとはあなただけなんです」

オレはしばらく床を見つめていたが、やがて踵を返した。

「……仕事の時間だ」

それだけ言い残し、ドアの取っ手に手をかける。

「あなたは何にこだわっているのです」

一瞬だけ身体が止まるも、オレはさっさとその部屋をあとにした。


◇◇◇

「おらぁ! 謝罪はどうした‼」
「ひいいぃ‼ ごめんなさいいい‼」

オレは建物にもたれかかりながら、呆然とヴィランが暴れているのを見つめていた。
土下座する男を見ても、民衆は気にもしていない。

この20年。オレはまったく同じことを繰り返していた。
現場に出て、悪事が為される様子を観察し、小さくため息をついて結果を報告する日々。

これでも昔に比べれば、おおっぴらな差別も紛争もなくなり、世界は平和になりつつある。
けれどそこには、悪に慣れ、都合の悪いことを素通りし、弱者を見捨てる民衆達が、確かにいた。
オレが作った価値観が浸透し、世界は緩やかに、悪に染まりつつあった。

『あなたは何にこだわっているのです』

そう言っていた中曽根の言葉を思い出す。

……別に、何もこだわってなんかいないさ。
ただオレは知りたいだけだ。
世界がこうなると知っていて、オレを助けたあのヒーローの真意を。あいつが最後に残した笑みの意味を。

オレはちらと、すぐそばの路地裏を見た。
そこにはゴミが散乱し、蓋をしたポリバケツが置かれている。
オレがそのバケツの蓋を開けると、中には三角座りしている女がいた。

「何やってるんだ?」

それは、以前オレが助けた女だった。

「……か、隠れてるだけ」

ふてくされるように、女は言った。
オレは思わずため息をついた。
どうやらこいつは、また誰かにいじめられているらしい。

ふと女の方から視線を感じ、オレは驚愕した。
彼女はオレを見て、安堵するような目を向けていたのだ。
まるで、正義のヒーローでも見るかのように。

中曽根に言われた言葉を思い出す。
自分でも驚くくらい、怒りが胸の中で渦を巻く。

オレは女の襟首を掴み、そのままバケツの中から引っ張り出した。

「ちょ、ちょっと! 離してよ‼」

暴れる女を無視して引きずっていると、ちょうど女を探しているであろう、3人組の女子を見つめた。

「なんでこんな酷いことするの⁉」

女の悲痛な叫びに、オレは鼻で笑った。

「酷いだって? そりゃそうだ。前にも言っただろ。オレ様は悪党なんだ」

オレ達に気付いたいじめっ子達が、にやにや笑いながら近づいて来る。
彼女は顔面蒼白だった。

「こ、こんなの間違ってる……」
「……へぇ、そうなのか。目からうろこが落ちたよ」

オレは女の胸倉を掴んだ。

「じゃあ他にどうすりゃよかった? 迫害されて理不尽に死んでいく仲間を、ただ見つめていればよかったのか? 正義のヒーローがオレ達を助けてくれるまで、ひたすら耐えればよかったのか? 立ち止まってなんていられなかった。間違ってるかもなんて思っていたらできなかった。前に進む以外、方法なんて何もなかった」
「……な、なんの話……?」
「……クソ食らえだ。正義も、正論も、この世の中も、全てクソ食らえだ!」

オレは女をいじめっ子達の方へ押し倒した。

「この世にはな! ヒーローなんて、いないんだよ‼」

そうだ。
20年。オレはずっと待っていたんだ。
この閉塞した世の中を、空虚が渦巻くこの心を、一気に吹き飛ばすようなヒーローが現れることを。
それが夢物語だと分かっていながら、ヒーローが現れるかもしれない場所に敢えて立ち、ずっと願っていたんだ。

いじめっ子が女の手を引く。
女は、涙目になりながらオレを見つめている。
そんな女を見て、オレは冷ややかに笑ってみせた。

ゆっくりと彼女達に背を向ける。
その時だった。

「隙あり、です」

ずぶりと、横腹を何かが貫いた。
それがヒトの腕だと気づいたオレは、すぐさま背後に拳を突き出した。
一瞬の内に後退して拳をかわしたのは、全身を包帯で包んだ女だった。
腹から血が噴き出て、思わず膝が崩れ落ちる。

「さすがはボス。平時であれど、一切の隙がなかった。今この瞬間以外は、ね」

異変に気付いたいじめっ子達が、悲鳴をあげながら逃げ出していく。
女は、愕然とした様子でオレを見つめていた。

「……お前。カゲロウか」

カゲロウ。
それは悪の組織でも名うての戦闘員だった。
20年前の闘争でも活躍した、隠密行動から破壊工作まで何でもこなす歴戦の勇士だ。
そして、中曽根の子飼いでもある。

「聡明なボスなら、先程の一撃で、全てをご理解してくださったことと思います」
「……まさかこのオレ様が、部下に謀反を起こされるとはな」

笑ってみせるが、したたり落ちるあぶら汗を止めることはできなかった。

「致し方ないことなのです。悪の組織は人間を根絶やしにするために生まれた組織。それを阻止する者は、たとえボスであっても許しません」

傷を押さえる手は、既に血塗れだ。
ランスであるオレにとっては致命傷とまではいかないが、まともに動けるようになるまでしばらく時間が掛かる。

「謝罪は致しません。最初に裏切ったのはあなたです、ボス。我々に幻想の夢を見せて事を為し、終われば全ての責任を放棄する。中立の立場を謳(うた)い、一人高い場所から我々を見下していた。一人だけ怒りや悲しみを忘れ、現実で生きようとした。我々を置き去りにしようとした、あなたが悪いのです」
「……オレが必死で築き上げてきたものは、全て無駄だったってわけか」

彼女は何も言わなかった。
言葉の代わりに、包帯の奥で光る瞳から、一筋の涙がこぼれる。

「これは主の代わりに流す涙です。せめて痛みのないように、一撃で葬って差し上げます」

カゲロウが、オレの頭に手をかざす。

まさかこんな形で死ぬハメになるとは、我ながら情けない。
ちらと横を見ると、未だにあの女が、腰を抜かした状態でこちらを見つめていた。

「お知り合いで?」
「……いいや。だからオレの顔なんて覚えてないし、お前のことも、どうせすぐ忘れるだろうよ」
「……他でもないあなたが言うのです。そういうことにしておきましょう」

やれやれ。オレもヤキが回ったな。
でも、最後くらいいいだろ?
悪党のオレでも、心底嫌いなガキ一人助けるくらいなら。

(……ああ、そうか)

最後の最後になって、ようやく分かった。
20年間、ずっと燻(くすぶ)っていた想いが。
オレの本当にやりたいことが。
そうだ。オレはきっと──

「さようなら、ボス」

カゲロウの手から熱を感じる。
突如として現れた炎が手に宿り、それは徐々に肥大化していく。
炎に飲まれるのを覚悟して、オレが目を瞑ろうとした時だった。

ふいに、オレの耳に何かが聞こえた。
真昼間に聞こえるはずのない、コウモリの羽音が。

打撃音と共に、カゲロウの手が離れる。
その隙間から、オレは見た。

単身、カゲロウに飛び蹴りを食らわす、その女の姿を。

カゲロウはその蹴りを腕で防ぎ、少しだけ後退すると、すぐさま体勢を立て直す。

「何者です?」

鋭い眼光で、カゲロウは女を睨みつける。
女は強化細胞で作られた黒いスーツで身を包み、コウモリを模したアイマスクで姿を隠していた。

オレは後ろを見た。
先程まで、震えて立つこともできなかった女がいなくなっている。
間違いない。
こいつはあの女だ。
いじめられ、ただ助けを待つことしかできなかった、あの女だ。
女の身体は震えていた。
幼く頼りないその背中が、ずっと忘れられない彼女のものと、重なった。
倒れ伏した弱弱しい背中ではない。たった一人で凛と立ち、オレ達の前に立ちふさがっていた、あの勇敢なヒーローの背中と。

「……お前、なんで」
「た、助けて欲しそうな顔してた、から」

女は、わななく声でそう言った。
あいつとは似ても似つかない、自信なさげな顔で。

……なんだそれは。
さっきまでただのいじめられっ子だった奴が、一端のヒーロー気取りか。

怒りを通り越して呆れてくる。
けれど同時に、胸の中で、熱い何かが湧き上がってきていた。
20年間、ずっと凍りついていた心を溶かすように。

「う、うわああああ‼」

女は叫びながら、子供のようにぐるぐると腕を回し、カゲロウへ突進した。

「……舐めているのですか?」

微動だにすることなく、カゲロウは女の頭を掴んだ。

「焼かれて死ね」

手のひらから精製された炎が、一気に噴き出す。
が、それは女を飲み込まず、大空へと放たれていた。

包帯の隙間から覗く目が、大きく見開く。
オレは、カゲロウの腕を掴んでいた。
貫かれた傷は、煙をあげるほどの細胞運動によって、既に塞がれている。

思わず笑みがこぼれた。
まったくもって情けない。
いい歳をして、こんなガキから学ばされるとは。

「お前の言う通りだ、カゲロウ」

オレは静かに言った。

「オレは自分で作ったこの世界に飽き飽きしていたんだ。20年経っても怒りを忘れないお前らにも、同じことばかり繰り返す世の中にもな」

悪の組織が勝利したその日から、オレは分かっていた。
彼らが怒りを忘れられないことを。
人間がオレ達にしたように、オレ達が人間を迫害し始めることを。
ずっと終わらない、憎しみの輪廻が回り続けることを。

正当化して、知らないフリして、考えることを放棄していた。
だが、それももう終わりだ。

「お前に刺されて、ようやく吹っ切れた。お前らは間違ってる。だから、オレが潰してやるよ。ヒーローじゃなく、悪党としてな」

オレはカゲロウを殴り飛ばした。
ボールのように吹き飛ぶ彼女の身体が建物にぶつかる瞬間、突然全身が炎となって消える。
しばらくすると、何もない場所から炎があがり、それはカゲロウの姿になった。

「……どうやら、ここであなたを殺すのは不可能のようですね。一時撤退させていただきます」
「ああ。中曽根によろしく言っておけ。せいぜい寝首をかかれないように気を付けろってな」
「承知いたしました。あなたが粛清すべき裏切り者になったと、伝えておきます。それでは」

カゲロウは、慇懃に一礼すると、そのまま炎となって消えた。
先程までの戦闘が嘘のように、辺りは静まりかえっている。

世界は敵になり、再びゼロからのリスタート。
まったくもって最悪な日だ。
最悪だが、妙に清々しい気分だった。
それはきっと、後ろにいる馬鹿も、多少は影響していることだろう。

「おい」

どうしたものかと手持ちぶさたにしていた女に、オレは言った。

「お前、名前は?」
「リ、リオ。真辺リオ」
「そうか」

オレはリオに向かい合い、にこりと笑う。
リオは、戸惑いながらも、ぎこちなく笑った。
オレはそれを見て、ゆっくりと彼女の鼻を摘まみ上げた。

「い、いたたたたた‼ 急になにするの⁉」
「馬鹿かお前は。簡単に自分の素性を明かすんじゃねぇ」
「そ、そんなのあなたに関係ないじゃん! いた、いたたたた‼」

うるさいので離してやると、鼻に両手をあてがい、涙目になってオレを睨んでいた。

「お前、家族とうまくいってないのか?」
「……何よ、急に」
「学校は? どうせ嫌われ者なんだろ」
「う……。そ、そうだけど⁉ なにか悪い⁉」

開き直って叫ぶリオに、オレは言った。

「人気者になりたいか?」
「え?」

あのヒーローは、最後に何かを守って死んだ。
その何かを、オレは20年、ずっと探し続けてきた。

答えなんて分からない。
どれだけ探しても、知りようがない。
唯一その答えを知っている奴は、とうの昔に死んだのだから。

だが、オレは思ったのだ。
もしかしたら……。
もしかしたらこいつなら、その答えを教えてくれるんじゃないかと。
弱くて、情けなくて、正義のヒーローには程遠い。けれど何よりも気高いものを持った、この女なら。

オレは、ずいとリオに顔を近づけ、言った。
この世の中をぶっ壊す、最初の一段となる言葉を。

「オレがお前を、人気者のヒーローにしてやるよ」

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